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ドリーム・パーク

 ドリーム・パーク (創元推理文庫 (677‐1))

ドリーム・パーク (創元推理文庫 (677‐1))

ドリーム・パーク (創元推理文庫 (677‐1))

 

 

 あご髭をきちんと刈り込んだ肌の黒いハンサムな青年の顔が、立体写真の中からのぞいた。経歴は向かいのページに記載してある。名前、リチャード・ロペス。年齢、26才。〈ゲーム〉上の役割は、〈ゲーム・マスター〉。

 この書類に目を通すのはまったく形式的な仕事だった。ロペスは、〈保安部〉と〈技術部〉で徹底的な調査を受けて来たはずだ――そして優秀でもある。この前に行われた〈サルベージ・ゲーム〉を演出したエヴァンスという少女は、空軍電子工学校で修士資格を取った上に、MITで3年間勉強していた。しかもあの〈ゲーム〉は、〈Bゲームエリア〉で行われたに過ぎない。〈Aエリア〉はその3倍も広く、〈競技本部〉も3倍複雑だ。 ロペスはすばらしく優秀なのだろう。彼と彼の助手が明日の朝に〈コントロール・ルーム〉に入るときにはぜひ立ち会いたいものだ、とアレックスは思った。

 彼の助手は?――黒い髪をショートにした背の高い東洋人風の少女が、白い歯を見せながらページのなかからつつましく微笑みかけていた。ミツコ・ロペス、25才。書類にざっと目を通してみると、彼女がこれから始まる4日間の〈ゲーム〉を演出する補佐を、立派にできるであろう能力があることが分かっ た。類は友を呼ぶという訳だ。

 たぶんこの2人は、〈ドリーム・パーク〉で巡り合ったのだろう。もしかすると〈ドリーム・パーク〉の付属教会で結婚式を挙げたのかもしれな い。そういう結婚式はたいそう面白い催しになることが多かった。結婚式の参列者には〈善良な魔女のグレンダ〉や〈青髭公〉、〈灰色のガンダルフ〉や〈神の使徒 モーティ〉やらが含まれ、天使たちも多数参列するのだ。

 ロペス夫妻のほかには? ――なるほど、〈ロア・マスター〉か。〈ロア・マスター〉のチェスター・ヘンダースン。彼は年に3度ほど、〈ドリーム・パーク〉でチームを率いたり、比較的小さい〈ゲーム〉のためにでもテキサスからやってくる。彼の参加費用は、〈ゲーマー〉や〈ゲーム・マスター〉、またその後援者によって支払われるのが常だった。

 そういえば一年ばかり前、ヘンダースン絡みでなにか揉め事がなかっただろうか? アレックスは書類にざっと目を通した。――チェスター・ヘンダースン、32才。しかし映像ではもっと若く見える。生真面目な表情はこわいくらいだ。〈ドリーム・パーク〉を34回も訪れており、上顧客と見なされていた。

 ――あった。一年前、チェスターはマンモスを捕獲する目的で〈チベット・マウンテン〉への探索を行った。その途中で一行は災厄に会い、13名のうち生き残ったのは3名だけで、マンモスは捕獲できなかった。チェスターは〈ゲーミング・ポイント〉を数百点失って、〈国際空想競技協会〉での地位が危うくなったはずだ。その不運な探索を演出した〈ゲーム・マスター〉は誰だっただろう?

 ほう! リチャード・ロペスだ! チェスターは〈協会〉に、高すぎた難易度を反則だと訴えた。〈協会〉が問題を審議した結果、〈雪蝮〉と呼ばれ る毒蛇の猛毒は異常に強かったが、探索隊に対して用いられた狡猾なトリックはすべて、規則に違反していなかったと判定した。ロペスには注意が与えられたが、 チェスターは〈ゲーミング・ポイント〉を368点も失ったままだ。――そして、それよりももっと興味深い点を見つけた。ロペスは今年まで〈匿名のゲーム・マスター〉として活動しており、妻のミツコを通して〈ゲーム〉の交渉を行ってきた。が、チェスター・ヘンダースンは今年の〈ゲーム〉にてロペスとの直接会合を求めており、〈協会〉もその要求を認めていた。

 してみると、2人の〈マスター〉が現実に顔を合わせるのは、これが初めてだろう。アレックスは椅子に背を持たせて天井を見つめた。どうやらこれは遺恨試合らしい。そして遺恨試合というやつは、いつでも面白くなるものなのだ。