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やけっぱち大作戦 (Desperate Measures:デスパート・メジャーズ) 1989

desperate 捨て鉢の, 死にもの狂いの, 自暴自棄の, 絶望的な, 命知らずの
measures  打つ手, 措置, 対応, 方策, 策, 処置, 政策, 手段, 処分
(※デスパレートと表記されることが多いが、実際にはデスパートとしか聞こえない)

 最初ひどい日本語タイトルだなと思いましたが、
実際に辞書で調べてみると、格好よい日本語にならないですね。

 参考にならないかと英語タイトルにてAmazonで探してみたところ、
とてもたくさんありました(サスペンス風からエロイ風まで)。
英語圏ではいいカンジの単語なのでしょうか。
 結局、結構がんばった日本語タイトルかなと思うようになりました。
みなさんならどんなタイトルにしますか?

 ちなみに、内容はほぼTRPG「トラベラー」でびっくりです(笑) 主人公たちは自由貿易商人だし、後半は傭兵物ですし、ジャンプもクレジットもそのまんまです。日本で手に入る小説で、これほどトラベラーに準拠した作品は読んだことがありません。
 古本なら、日本でも海外でも1円or1セントと格安で手に入ります。「急かせるわけじゃないんですが、いかがです?」

 

Desperate Measures

やけっぱち大作戦 (ハヤカワ文庫SF―エンジェルズ・ラック)

やけっぱち大作戦 (ハヤカワ文庫SF―エンジェルズ・ラック)

 

 

第 二 部  8

 

 六週間後、ジェイムズ・メイは、《スター・オブ・ボリビア》という名前のレジャー艇の船殼をコツコツと足で蹴りながら、その船がいかに買い得であるかをハーツングという男に説明していた。
 「じつにいい船ですよ」とメイ。「わたしの友人の持ち船でしてね。なにしろ二年物で、まだ三度しか軌道飛行をさせたことがないんです。そりゃあ、こういった軽量艇は中古艇ディーラーで買うこともできますが、最低でも一億はするでしょう。そのうえボディは塗装し直さなきゃならない。それにひきかえこのかわいい宝石は、最初っから個人所有になっていましたから、そうした心配はいっさい無用なんです。それが、附属品までひっくるめてたったの五千五百万ですから」
 「再塗装はどうってことないんだが」とハーツング。「まえの所有者が、船のなかに麻薬なんぞを隠しとらんだろうね?」
 「どうしてそんなことを気になさるんです?」とメイ。
 ハーツングはレジャー艇にむけて手をひらひらさせた。「こいつはどう見ても警察の競売品だぞ。あんたはそうじゃないと請けあったが」
 「もちろん警察の競売品なんかじゃありませんよ」メイはもう一度確約した。
 「それじゃあ、どうして二年しかたっていないレジャー艇にそんな値がつけられるんだね?これなら七千万はとれるだろうに」
 「しかし、ぼくたちは七千万でとお願いしているわけじゃないんです」とデューク。
 「じゃ、どうしてたった五千五百万でいいんだね? そんな値段じゃあ、裏になにかあるにちがいない」
 「まあ、間いてください」
 「正直に言った方がいいぞ。さもないと、あんたらが息を吸う間もないうちに、商工会議所に訴えでてやるからな」

 「じつは、個人から販売を委託されているんです」すばやくデュークが言った。メイはきょとんとしてデュークの顔を見た。「本当のことを話した方がいいですよ、メイ。彼には知る権利があるんだから」
 「本当のことを話す?」メイが聞き返した。

 「そうですよ」とデューク。ハーツングにむきなおって、「ここ数世紀のあいだ、ソル3ではふたつのファミリーがいがみ合っていますよね。そのおかげでたくさんの物件が法律上のごたごたに巻きこまれていまして、この船もそのうちのひとつなんです。
 最近仲裁人たちは、両ファミリーが所有権を主張している物件すべてを現金化し、平等に分配することによって、両者のあいだの紛争を治めようとしているんです。こうした問題を解決するには、時間がもっとも重要な鍵となりますからね。ぼくたちは少しでも早く現金を得るために、公示価格よりも安い値段で売る権限をあたえられているんですよ」

 ハーツングは顔をしかめた。「たしかあんたは、個人的な取り引きだと言ったはずだが」
 「はい、そうです」デュークは説明をつづけた。「ここにいるメイさんがソーム仲裁事務所のお偉方たちと昔からの友人で、ぼくたちに個人的にこの件を扱ってくれるようにと、ソーム氏自身から依頼されたんです」
 「あんたが嘘を言っていないと、どうしてわかる?」
 「船の権利書を確かめてください」デュークはいった。「抵当権譲渡証はソーム仲裁事務所が
発行したもので、この販売が『合法的基金の統合のために実施されるものである』と、はっき
りと記載されています。もしお望みならお見せしますよ」

 ハーツングの肩ごしに、メイは苦虫を噛みつぶしたような顔を見せた。抵当権譲渡証は、たししかにそのとおりの名前の事務所から発行されたものだ。『合法的基金の統合のために実施されるものである』ともたしかに記載されてはいる。が、それ以外の部分をチェックされたら、
デュークの話がみんな嘘であることがたちまちばれてしまうだろう。
 《セント・ヴレイン》から脱出したあとにメイは、ヒロが配下の殺し屋たちを組織して追手をかけてくる前に着こうと、ヴェガス星系に進路をむけた。三日のうちに惑星規模のカジノ・チェーンのオーナーたちと連絡がとれ、オーナーたちは1ポンドあたり二十六クレジットという価格に狂喜して牛肉を引きとった。
 「ここへ先にくればよかったですね」とデュークはメイに言ったものだ。
 つぎの仕事は売り物になりそうなレジャー艇を見つけることだった。ふたりはヴェガス星系でもあまり評判のよくない外縁惑星のひとつにある、あまり評判のよくないカジノを見つけた。
デュークの染みひとつない信用評価を使い、前金として百万クレジットの現金を積むことによ
って、メイは五人乗りの小型艇を比較的低率のローンで手に入れることができた。
 ふたりはその小型艇をニャド星系にもっていって、ニャド3で若返り処置を終えて出てきたばかりの、八十九歳の婦人にすばやく売りつけた。彼女はこの星で、ゼロGセックスに天才的
なセンスをもった二十四歳の五番目の亭主と出会ったのだ。彼女は品質がいい割に妥当な値段であることをよろこび、飛びつくようにして買ってくれた。

 この成功で、ふたりの士気はおどろくほどあがった。彼らは上機嫌で、ヴェガス系へもどる
コースを設定した。ヴェガス系にもどり、ニャドで売り払ってきたばかりの小型艇の代金をただちに清算すると、メイはつぎの商品を物色しに、今度は標準以上のカジノヘと足をむけた。
 前回のローンをすばやく完済したことでデュークの信用評価が向上したことを利用し、前回よりもわずかに多い頭金を納め、今度は二隻の小型艇を買い入れた。そして《エンジェルズ・ラック》の船倉にその二隻を収納し、ふたりはニャドヘもどった。
 一週間とたたないうちに二隻とも売れ、ふたりは差し引き五千万クレジット以上のカネを手にすることになった。デュークは二隻を買い入れるために組んだローンを急いで清算するよう勧めたが、メイはそれを拒んだ。もしも頭金だけ払ってさらにローンを組み、あと二隻の小型艇を買い入れれば、その二隻を売ることでヒロヘの借金が清算できるばかりか、その後も商売をつづけていけるだけの資金を残しておくことができるというのだ。
 「カネが散らばっちまうのは好きじゃない」と、メイは理由を説明した。
 デュークはそれに反論して、実際には現時点でさらに多くの船に投資をすることが持ち金を散らすことになるのであり、しかもいうまでもないことだが、それが自分たちが築いてきた信用評価に悪影響を与える、と言ってメイを納得させようとした。しかしメイは、あと一度商売をすれば自分たちはすべての借金から解放されるし、自分たちにやる気があるかぎり同じように船を売買して、そのカネで新しいスタートを切ることができると頑固に言い張った。
 きわめて当然のことながら、ヴェガス3にあるレッドライン・カジノの支配人は、カジノが借金のかたに取りあげた船を仕入れにもどってきたふたりの事業家に、大喜びで会ってくれた。

 数日以内にふたりはローンを組みなおして三隻の小型艇――《ルコネ・シェリー》と《インシャラー》と《スター・オブ・ボリビア》――を購入した。はじめの二隻は《エンジェルズ・ラック》の船倉に収納できたが、最後の一隻が問題だった。ほかの二隻をどんなにうまく詰めこんでも、《スター・オブ・ボリビア》のロケット噴射口が荷役口から突きだしていて、ハッチがぴったり閉まらないのだ。
 「それがどうして問題なんです?」デュークがたずねた。「磁力グリッドを再調整して、ハッチを開けたままで飛ぶだけのことでしょう」
 「それができんのさ」とメイ。「そんなふうにグリッドを始終操作しつづけたら、VASAC
がいかれちまう――」デュークの視線を受けて、「――まあ、手に入ったらの話だがな。それ
に、動力部にも負担をかけすぎることになる。銀河通商委員会法じゃ、荷物を固定しな
いままで飛行することを禁じているんだ」
 「それじゃ、《スター・オブ・ボリビア》は、ここで売ってしまわなくっちゃ」
 「だれがこんなものを買ってくれる――どのカジノヘも行けるし、自分用に一台手に入れるこ
とだってできるのに? あれのおかげで、おれたちゃここに足留めだ」メイは激しく悪態をつ
いた。「もっときちんと寸法を測っとくんだったな」
 「ぼく、寸法をチェックしておいたんですよ」デュークは船の架枠を調べながら言った。「合
うはずです」そして、船倉に飛びこみ姿を消した。
 「デューク――」
 「なにか忘れていることがあるにちがいないんです」

 メイは開いたままのハッチにぐったりともたれて、あたまを掻いた。たぶん、少額のローンをべつに組めば、《エンジェルズ・ラック》の船腹に一連の固定用取っ手を取りつけられるだろう。
 デュークが《スター・オブ・ボリビア》の艇首の下から、ほこりまみれの顔であらわれた。
 「船倉のいちばん前にあるスチロプラスト製のキャビネットには、なにが入ってるんです? 船倉の見取り図にはあんなものは描かれていないのに」
 「ありゃあハイジャック防止システムだ。もしも正しいナンバーを打ちこまなかったら、おまえの大好きなブルーのガスがブリッジじゅうに噴きだして、それと同時に、VASACは本当の持ち主が制御できるようになるまで船を待機モードに固定してしまうのさ」
 「移動させられますか?」
 「当然だ。あんなものVASACがなけりやただの箱さ。それに、あれはあとからくっつけた装置だから、取り外して売り払うことだってできる。――しかし、なんでまたそんなことを訊くんだ?」
 「そのシステムが、船倉を三立方メートルくらい占領しているんですよ。じっさいに《ルコネ・シェリー》は、あのキャビネットで鼻面をこすっているんです。キャビネットを放りだして《ルコネ・シェリー》と《インシャラー》を前へ動かせれば、《スター・オブ・ボリビア》のはみ出た噴射ノズルは引っこめることができます」

 ハイジャック防止システムを買ってくれる仲買人が見つかるまでに数時間かかった。レジャ
ー艇の積みこみは夜半までに完了し、ふたりはマレーシア・プライム社の本社がある、高度に
工業化された惑星アイアーガ12にむけて出発した。
 船の繋留が終わると、メイは客を捜しに地上に降りた。客捜しはニャド3のときよりも難し
かったが、それでも一週間ほどでハーツングという名の男を見つけ、《エンジェルズ・ラッ
ク》の船倉へ案内して商品を見せることができたのだ。
 「その必要はないよ」とハーツングはメイに言った。「わしは疑り深い性質ではない。それに
わしは、自分のパイロット免許を読むのにも苦労するんだよ。売買契約書なんぞを見せられ
ても、どうせちんぷんかんぷんだ」
 メイはほっと胸をなでおろした。彼は《スター・オブ・ボリビア》の船殼をなでているハーツングを見守っていたが、やがて口ごもりながらいった。「急かせるわけじゃないんですが、いかがです?」
 ハーツングは顎をボリボリ掻きながら、「小切手プレートで払ってもいいかね?」
 「有効なやつでしょうね?」メイがたずねた。
 「もちろんだとも」ハーツングはにっこり笑ってこたえた。
 ふたりはむきあって上機嫌で握手を交わすと、軌道ステーションの軸方向にある法律事務所
へ漂って行き、売買契約書に必要事項を記入して公証人に認証してもらった。祝杯をあげて《エンジェルズ・ラック》にもどると、ハーツングはすぐに自分の買ったレジャー艇に乗りこみ、船
殼を極性化しはじめた。船倉の扉が開くと、《スター・オブ・ボリビア》はふわりと浮かんで
船倉を出て、くるりと回転してからゆっくりと飛び去った。メイはそれを見送りながらにっこ
り笑った。

 「いいことをすると気持ちがいいなあ、ええ? あのしあわせそうな顔を見ただろう」
 「小切手プレートを現金に替えてミスター・ヒロに返したら、もっとしあわせに感じるでしょうね」
 メイは船倉を密閉して加圧しなおすと、言った。「それこそ、おれが味わうのを楽しみにし
ている瞬間さ。新しいビジネスのはじまりだからな」